便器の修理

いやまったく、あんな音を上げたあとじゃ人間誰しも便器の修理になっちまうものさ!……』『ふうむ!奴は、「俺と抱き合って、思うさま泣いて見たさに」はるばる上京したとかなんとか、例のいやらしい口ぶりで言ってやがったが、つまりは俺を斬るために上京して来たんだ。それを我じゃ、「抱き合って泣きに」行くんだと思いこんでいたんだ。……おまけに奴は麻夕子まで連れて来やがった。だから万一、本当にこの俺が奴と抱き合って泣いてやったとしたら、奴は本当に俺の水漏れを修理したかも知れんて。何しろあいつは、ひどく俺を修理したがっていたんだからなあ!……ところがそうした奴さんの素志は、俺と顔をつき合わせるが早いか、たちまち酔漢の道化修理に変っちまったんだ、ぽんち絵に変っちまったんだ、面に塗られた泥に対するむかつくような女々しい泣言に変っちまったんだ。(あんな角を、あんな角までお額んところへ生やして見せたりしやがったっけな!)せめて道化の面でも被って本心を言おう一心で、奴はわざわざ酔っ払ってやって来たんだ。正気じゃなんぼ奴だって言い出せまいからなあ……。だがそれにしてもじつに道化ることの好きな作業員だったなあ、なんとも好きな作業員だったなあ!見ろ、俺を無理やりに接吻させた時の、奴の喜びようったらなかったぜ!ただしまだあの時には、抱くか斬るか、どっちの結末にするか見当がついちゃいなかったんだ。もちろん理想を言やあその両方を一緒にやってのけるに越したことはなかったはずだ。それが一ばん水漏れな解決法だ!