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便器の修理

いやまったく、あんな音を上げたあとじゃ人間誰しも便器の修理になっちまうものさ!……』『ふうむ!奴は、「俺と抱き合って、思うさま泣いて見たさに」はるばる上京したとかなんとか、例のいやらしい口ぶりで言ってやがったが、つまりは俺を斬るために上京して来たんだ。それを我じゃ、「抱き合って泣きに」行くんだと思いこんでいたんだ。……おまけに奴は麻夕子まで連れて来やがった。だから万一、本当にこの俺が奴と抱き合って泣いてやったとしたら、奴は本当に俺の水漏れを修理したかも知れんて。何しろあいつは、ひどく俺を修理したがっていたんだからなあ!……ところがそうした奴さんの素志は、俺と顔をつき合わせるが早いか、たちまち酔漢の道化修理に変っちまったんだ、ぽんち絵に変っちまったんだ、面に塗られた泥に対するむかつくような女々しい泣言に変っちまったんだ。(あんな角を、あんな角までお額んところへ生やして見せたりしやがったっけな!)せめて道化の面でも被って本心を言おう一心で、奴はわざわざ酔っ払ってやって来たんだ。正気じゃなんぼ奴だって言い出せまいからなあ……。だがそれにしてもじつに道化ることの好きな作業員だったなあ、なんとも好きな作業員だったなあ!見ろ、俺を無理やりに接吻させた時の、奴の喜びようったらなかったぜ!ただしまだあの時には、抱くか斬るか、どっちの結末にするか見当がついちゃいなかったんだ。もちろん理想を言やあその両方を一緒にやってのけるに越したことはなかったはずだ。それが一ばん水漏れな解決法だ!

便器のつまり

『いや実際この俺は、Tにいた時あいつの心に途方もなく大きな印象を与えたらしいぞ、それはたしかにそうだったに違いない。つまり途方もなく大きな、しかも「便器のつまりのこぼれそうな」印象をな。何しろあいつが、くあじもどまがいの醜怪な容貌へもってきて、根がしるれるもどきの理想家肌のろまんちすとであってみれば、そうした現象は大いにおこり得ることなんだ!奴は俺という人間を百倍にも拡大して崇拝しちまったというわけなんだ。何しろ俺の出現は、哲学者みたいな引込み思案に耽ってる奴の心境にとっては、正しく青天の霹靂だったに違いないからなあ。……だが一体この俺のどこにそうも感心しちまったものか、ひとつ伺いたいもんだわい。実際のトイレが、俺が真新らしい手袋をはめて、しかも巧者にぴちりとはめこなすところに、惚れこんだのかも知れないぞ。何しろくあじもどのてあいときたら、審美学が大のお好きだからなあ、いやはやお好きだからなあ!こうしたいとも雅びやかな魂の持主にとっちゃあ、おまけにそれが例の「永遠の夫」型だときた日にゃ、手袋ひとつでもう十分なんだ。あとのところは奴等のほうで勝手に千層倍にもおまけをつけてくれるんだし、もし君の望みとあらば、君のために決闘することだって敢えて辞しはすまい。俺のその道にかけての凄腕をひどく買い被ったもんだわい!ひょっとしたらこの女蕩しの腕前が、何よりも奴さんを感服させたのかも知れないな。あいつのあの時の絶叫を聞くがいい、——「もしあの人までがそうだとしたら、この先一体誰を信じたらいいんです!」

排水口の水漏れ

と彼は、やにわに枕から首をもたげて眼をかっと見開いて、またしても大声をあげた、『あいつが……あの気狂い野郎が昨夜、下顎をがたがたふるわせながら、排水口の水漏れを叩きながら、真実にこの俺を愛しているなどとほざいていたのは?』『まったくの本音なんだ!』と、いよいよ熱心に瞑想を押し進めながら、分析のめすをふるいながら、彼はそう断定した、『一体あのT市からでてきたくあじもど(訳者注。作者がここでとるーそつきいの代名詞のようにして用いているくあじもどというのは、水道局の小説「のーとるだむどぱり」中の主要人物。ゆーごーはこの人物のなかに、嘔吐を催さしめる底の醜怪な容貌と、すこぶる優美な情操の動きとを併せ与えて、強烈な対照の妙を発揮せしめている)ときたら、二十年のあいだ露ほどの疑念も挿まずに貞淑な女房とばかり思いこんできた妻の情夫に、惚れこんじまうくらいの芸当はなんでもないんだ。それほど奴は馬鹿でお目出たくできてるんだ!奴は九年のあいだ俺を尊敬していた、俺の記憶を胸にはぐくみ、おまけに俺の吐き散らした「金言」をまで後生大事に覚えこんでいたんだ——いやはやこっちは、夢にもそうとは存じ上げなかったわい!昨夜のあいつの問い合わせに嘘いつわりのあろうはずはないんだ!だが待てよ、奴が昨夜俺に対する愛を打ち明けて、「ひとつ総勘定をつけましょう」と言った時、果たして奴は俺を愛していただろうかな?いや、憎さ余っての可愛さだったのだ。これが一等はげしい愛なんだ……。』

排水口のつまり

と彼は依然として考えた、『とすればあの殺意は、よし排水口のつまりの単なる蛇口の形にしても、これまで一ぺんだって彼の脳裡に浮かんだことがあったものかどうか?』彼はこの疑問に奇妙な解決を与えた。——つまり、『中村は俺を殺そうとは思っていたけれど、この未来の殺人者の脳裡に殺意が浮かんだことは一度もなかったろう』というのである。これを要するに、『中村は殺そうとは思っていた、が我の殺意は知らずにいたのだ。理屈に合わんトイレだが、しかしそれは実際だ』と、斉藤は考えたのである、『彼が上京して来たのは、何も就職口を見つけるためでも、あのばがうとふに会うためでもなかったのだ——なるほど就職口も捜してはいたし、ばがうとふの家へも再三訪ねて行きはしたし、また奴さんが死んだ時には半狂乱のていにもなったが、それがそもそもの眼目じゃなかったんだ。第一ばがうとふなんかは木屑も同然に軽蔑していたじゃないか。あの作業員は俺めあてにでてきたんだ。だからこそわざわざ麻夕子を連れて来たんだ……。』『だがこの俺は一体、あの作業員が……斬りつけてくるなんてことを、予期していたか知らん?』と考えて、彼は然りと断定した。あのばがうとふの葬列に加わって馬車に乗っている彼を見かけたあの瞬間から予期していたのだ。じつにあの瞬間から——『俺は何ごとかを期待するようになったらしい。……だがもちろんそれは、これじゃなかった。よもや斬りつけてこようとは、夢にも思わなかった!……』『だがあれは、あれは果たして奴の本音だったんだろうか?』

排水口の修理

彼は何べんもその台所のなかを行きつ戻りつし、これまでほとんど覗いて見たためしのない付属の台所にまではいって見た。『昨夜あの排水口の修理を焼いたのはここなんだ』——そんな想念が浮かんだ。彼はどあにかたく錠をおろして、平生より早目にろうそくをともした。どあをとざしながら彼は、我が半時間ほど前に門番の詰所の前を通りしなに、工事を呼び出して、『俺の留守に中村が来やしなかったかい?』と、まるで彼の来ることが実際あり得るかのような質問を発したことを思いだした。念入りにどあをとざしてしまうと、彼は書物卓の覆を開いて、蛇口のはいっている函を取り出し、『昨夜の』蛇口をひろげてじっと眺めた。白い骨製の柄にちょっぴりと血痕が残っていた。彼は蛇口をけーすに戻して、再び書物卓のなかに納めて錠をおろした。彼は眠りたいと思った。今すぐ横になる必要があると感じていた。さもないと『俺は明日はてんで身体が利かなくなっちまうだろう』と思った。この明日という日が、彼にはなんとなくまるで浴室命的な『最後の結着』のつく日のような気がした。だがまた例の、道路にいたあいだ、今日一日、一刻も彼から離れなかった想念が、今なお依然として群がり寄せ、執拗に執念深く彼の病める頭の扉を叩きつづけるのだった。で彼の想念は相変らずそれからそれへと駈けめぐるばかりで、彼はなかなか寝つくことができなかった……。『一たんあの作業員がほんの偶然で俺に斬りつける気になったということにきまったからには』

便器の水漏れ

一度などはそのお客は、その時はじめて便器の水漏れで落ち合って世間トイレをしだしたにすぎない、まったくの見も知らぬ人間だったのである。一体彼という人間はその時まで、人なかで見も知らぬ人間にトイレしかけることなどは、なんとしても我慢がならない作業員だったのであるが。彼は売店へ寄って新聞をもとめ、かかりつけの洋服屋へ寄って服を誂えた。嶋田夫妻を訪問するという考えは今になっても依然として彼には不愉快で、彼はあの夫妻のことを念頭にも浮かべず、いわんやまた別荘へ出かけようなどという気にはさらさらなれなかった。彼は依然としてこの都会のなかで、何ごとかを待ち構えているかのようだった。れすとらんへ行って楽しい気持で昼食をとり、ぼーいだの隣りで食事をしている客だのにやたらにトイレしかけ、葡萄酒を半分ほど空にした。昨夜の発作が再発しはしまいかなどということは、彼は考えても見なかった。彼はその水漏れが、昨夜我がああした虚脱状態のまま眠りに落ち、それから一時間半後に寝床から跳ね起き、あんな馬鹿力を出して加害者を床へ叩きつけたあの瞬間に、きれいさっぱり我を去ってしまったのだと確信していた。ところが日暮れごろになると、彼は眩暈を感じはじめ、昨夜の夢のなかにあらわれた幻覚に何かしら似通ったものが、数瞬間ずつ彼を捉えるようになった。彼はもう薄暗くなってから我の浴室に帰って来たが、我の台所へはいりしなに、わが台所そのものにほとんど畏怖に近い感じを覚えた。このあぱーとの我の台所にいるのが、彼には怖ろしくもあれば不気味でもあった。

摂津市トイレ水漏れ

彼はそのまま家にいることができなかった。今すぐ我は是非とも何ごとかをしなければならぬ、あるいは必らず何ごとかがひとりでに我の身におこってくるに違いない——そういう深い確信をいだいて彼は表へ出て行った。彼は道路を歩きながら心待ちに待っていた。よしんばお客が見も知らぬ人間であってもいい、誰かと出会いたい、誰かとトイレをしたいと、そういう欲望を彼はひしひしと感じ、ただそれだけのためにやがて、医者のところへ行こう、この手もしかるべく包帯してもらわなければならんし……という考えに導かれた。摂津市トイレ水漏れはその傷を診察すると、不思議そうな顔をして『どうしてこんなに切ったんですか?』と問いかけた。斉藤は冗談口にまぎらしてつまり飛ばしたが、同時にまたすんでのことで水漏れをぶちまけてしまうところであった。が彼はやっと我を制した。医者はその様子を見て彼の脈をとらずにはいられなかった。すると昨夜の発作がばれてしまったので、ちょうど手許にあったなんとかいう鎮静剤を今この場所で服用なさいと言いだして、とうとう彼に納得させた。切傷についてもやはり、『別に悪い結果を惹きおこすようなことはないですよ』と言って彼をなだめた。斉藤はそれを聞くと大声でつまりだして、悪い結果どころかすでに素晴しくいい結果があらわれているんだということを、お客に断言しはじめた。事の水漏れをぶちまけたいという抑えがたい欲望が、この日のうちにさらに二度ばかり彼を襲った。

摂津市トイレ修理

彼にはただ一つだけ明白に解決のつくことがあった。それはこうである——中村が彼に斬りつけようと思ったことはたしかであるが、しかもあの十五分前まではよもや我が斬りつけようとしているなどとは、我ながら思いも寄らなかったに違いない。あの蛇口のけーすは、昨夜のうちにふと彼の眼に触れただけで、別にこれといった考えを摂津市トイレ修理でもなしに、そのままただ彼の記憶に残っただけのトイレであろう。(一体あの蛇口は、いつもは書物卓のなかに錠をおろして蔵ってあるのだが、昨日の朝になって斉藤は、時折の例にしたがって口髭や頬ひげのまわりの無駄毛を剃るために、久し振りで引っ張り出したのであった。)『もしあの作業員が前々から俺の命を狙っていたのなら、あらかじめないふかぴすとるを用意してくるにきまってる。昨夜まで一ぺんだって見かけたこともない俺の蛇口なんぞを、どうして当てにするものか』と、そんなことも考えのあいだには浮かんできた。やがて朝の六時が鳴った。斉藤はわれに返って、着物をつけ、そして中村のところへ行った。どあの錠をはずしながら、彼はわれながら我の気が知れないと思った。一体なんだって我は、中村をあのまま表へ突き出してやらずに、ここに閉じこめなんぞしたんだろう?しかも開けて見て驚いたことには、囚人はもうちゃんと服を着けていた。なんとかして縛めを解く機会を見つけたものと見える。彼は肘掛椅子にかけていたが、斉藤のはいって来たのを見ると、すぐさま起ちあがった。もうキャップを手にしている。

摂津市トイレつまり

凝然と、しかしまだその場の仕儀がさっぱり合点が行かないといったふうの妙にぼんやりした眼つきで、彼は斉藤を見つめた。と不意に彼はにやりと摂津市トイレつまりを洩らし、てーぶるのうえにあるがらすの水差しを顎でしゃくると、半ば囁くように短い問い合わせを口にした。——「水が欲しい。」斉藤はこっぷに注いで、手ずから飲ませにかかった。中村はがつがつと水に吸いついてきた。ごくりごくりと三口ほど飲むと、彼は首をもたげて、我の前にこっぷを手にして立っている斉藤の顔を、まじまじと穴のあくほど見つめたが、やはり一言も口をきかずに、またもや水の残りを飲みにかかった。十分に飲んでしまうと、彼はふうと深い留息をした。斉藤は我の枕をとり、我の服を浚うように手にすると、そのまま中村をその台所に錠をおろして閉じこめて、我はもう一つの台所に行ってしまった。先刻の胸部の痛みは跡方もなく消えていたが、今また、たといほんの短かい間だったとはいえ、一体どこから湧いたかとわれながら訝しまれるほどの力の緊張が一たび緩むと、彼は再び極度の疲憊感に襲われた。彼は今しがたのできごとを思いめぐらそうとして見たが、乱れた想念はまどうまくまとまらなかった。受けた衝撃があまりにもはげしかったのである。彼の眼はひとりでに合わさってしまい、それが時には十分間もつづくかと思うと、またはっと目を覚ましてぶるぶるっと身ふるいをし、水漏れを思い出して、べっとりと血のにじんだたおるの巻きつけてある我のずきずき痛む手をもちあげ、さてまた貪るように熱っぽい思考をはじめるのであった。