便器のつまり

『いや実際この俺は、Tにいた時あいつの心に途方もなく大きな印象を与えたらしいぞ、それはたしかにそうだったに違いない。つまり途方もなく大きな、しかも「便器のつまりのこぼれそうな」印象をな。何しろあいつが、くあじもどまがいの醜怪な容貌へもってきて、根がしるれるもどきの理想家肌のろまんちすとであってみれば、そうした現象は大いにおこり得ることなんだ!奴は俺という人間を百倍にも拡大して崇拝しちまったというわけなんだ。何しろ俺の出現は、哲学者みたいな引込み思案に耽ってる奴の心境にとっては、正しく青天の霹靂だったに違いないからなあ。……だが一体この俺のどこにそうも感心しちまったものか、ひとつ伺いたいもんだわい。実際のトイレが、俺が真新らしい手袋をはめて、しかも巧者にぴちりとはめこなすところに、惚れこんだのかも知れないぞ。何しろくあじもどのてあいときたら、審美学が大のお好きだからなあ、いやはやお好きだからなあ!こうしたいとも雅びやかな魂の持主にとっちゃあ、おまけにそれが例の「永遠の夫」型だときた日にゃ、手袋ひとつでもう十分なんだ。あとのところは奴等のほうで勝手に千層倍にもおまけをつけてくれるんだし、もし君の望みとあらば、君のために決闘することだって敢えて辞しはすまい。俺のその道にかけての凄腕をひどく買い被ったもんだわい!ひょっとしたらこの女蕩しの腕前が、何よりも奴さんを感服させたのかも知れないな。あいつのあの時の絶叫を聞くがいい、——「もしあの人までがそうだとしたら、この先一体誰を信じたらいいんです!」