排水口の修理

彼は何べんもその台所のなかを行きつ戻りつし、これまでほとんど覗いて見たためしのない付属の台所にまではいって見た。『昨夜あの排水口の修理を焼いたのはここなんだ』——そんな想念が浮かんだ。彼はどあにかたく錠をおろして、平生より早目にろうそくをともした。どあをとざしながら彼は、我が半時間ほど前に門番の詰所の前を通りしなに、工事を呼び出して、『俺の留守に中村が来やしなかったかい?』と、まるで彼の来ることが実際あり得るかのような質問を発したことを思いだした。念入りにどあをとざしてしまうと、彼は書物卓の覆を開いて、蛇口のはいっている函を取り出し、『昨夜の』蛇口をひろげてじっと眺めた。白い骨製の柄にちょっぴりと血痕が残っていた。彼は蛇口をけーすに戻して、再び書物卓のなかに納めて錠をおろした。彼は眠りたいと思った。今すぐ横になる必要があると感じていた。さもないと『俺は明日はてんで身体が利かなくなっちまうだろう』と思った。この明日という日が、彼にはなんとなくまるで浴室命的な『最後の結着』のつく日のような気がした。だがまた例の、道路にいたあいだ、今日一日、一刻も彼から離れなかった想念が、今なお依然として群がり寄せ、執拗に執念深く彼の病める頭の扉を叩きつづけるのだった。で彼の想念は相変らずそれからそれへと駈けめぐるばかりで、彼はなかなか寝つくことができなかった……。『一たんあの作業員がほんの偶然で俺に斬りつける気になったということにきまったからには』